関西電力・川崎重工のCO2敷地外輸送が変える、石炭火力CCUS商用化の現実

関西電力・川崎重工のCO2敷地外輸送が変える、石炭火力CCUS商用化の現実のイメージ

ニュースの概要

関西電力と川崎重工業が、京都府の舞鶴火力発電所から回収した二酸化炭素を、発電所の敷地外へ運び、地下に貯留する実証を始める計画が報じられました。川崎重工業は回収工程を担い、2026年度中の開始を目指します。石炭火力から出る二酸化炭素の最大9割削減を視野に入れた取り組みで、これまで発電所内に閉じていた回収技術を、輸送、受け入れ、貯留まで含む一連の仕組みに広げる点が大きな特徴です。国内で石炭火力由来の二酸化炭素を敷地外へ運ぶ初の事例となり、将来のCCUS事業に必要な実務データを集める段階に入ります。

引用元: 関西電力と川崎重工、石炭火力由来CO2の国内初の敷地外輸送を開始へ(Nikkei)

分析・見解

回収技術の評価から「輸送と貯留責任」の事業設計へ議論が進む

今回の計画の価値は、二酸化炭素を回収できるかという発電所単体の技術評価にとどまりません。回収後に誰が、どの設備で、どの品質のガスを、どの距離まで運び、最終的な貯留の責任を負うのかという事業設計へ、議論を進める点にあります。CCUSは回収装置だけでは成立しません。分離した二酸化炭素を圧縮し、液化または高密度の状態で一時保管し、船舶やパイプラインなどで輸送し、貯留地点で注入する必要があります。工程が一つ増えるごとに、エネルギー消費、設備費、漏えいの管理、操業停止時の対応が積み重なっていきます。

回収率だけでなく、稼働率や輸送を含む総費用で評価すべき

石炭火力では、排ガス中の二酸化炭素の濃度が高い一方で、回収装置を動かすための蒸気や電力が必要です。回収率を9割に近づけても、発電量の一部が回収設備に使われれば、発電所全体の効率はその分下がります。したがって評価すべき指標は、回収率だけではありません。回収設備の稼働率、発電量当たりの正味排出量、圧縮と輸送を含むライフサイクル全体の排出量、回収した二酸化炭素1トン当たりの費用を、同時に見る必要があります。高い回収率を達成しても、輸送距離が長く、貯留設備の稼働率が低ければ、商用事業としての競争力は弱まります。

敷地外輸送が重要な理由と、海外・国内の先行事例

敷地外への輸送が特に重要なのは、日本では二酸化炭素の排出源と貯留の候補地が一致しないケースが多いからです。国内の大規模な排出源は都市圏や工業地帯に集中し、適切な地質構造を持つ貯留地点は沿岸部や海域に分散しています。発電所内で回収して終わる実験と、複数の排出源をまとめて集積基地へ運ぶ事業の間には、大きな隔たりがあります。今回の実証は、その隔たりを埋める運用の知見を得る機会になります。輸送容器の規格、積み替え時間、純度や水分などの受け入れ条件、異常時の停止手順を標準化できれば、将来は複数の企業が同じ輸送網を利用できる可能性も高まります。

海外では、ノルウェーのLongshipのように、二酸化炭素の回収と貯留サービスを切り分けて、複数の企業が同じ輸送・貯留網を利用する構想が進んでいます。一方、日本の苫小牧での実証は、国内で二酸化炭素を地下へ圧入する技術と監視の知見を積み重ねました。舞鶴の計画は、こうした貯留の技術と発電所の回収工程を、敷地外の物流でつなぐ位置づけにあります。国内版のCCUSが成立するかどうかは、個別設備の性能よりも、排出源をまとめる集約力と、長期の責任を含む制度設計に左右されます。

二酸化炭素輸送は品質管理を伴う公共インフラになりうる

見落とせないのは、二酸化炭素の輸送が単なる物流ではなく、品質管理を伴う公共インフラになり得ることです。異なる回収設備から出たガスを同じ船や基地で扱うには、混入物の基準や計量の方法をそろえなければなりません。これが整えば、CCUSは一社だけの環境対策から、工場、発電所、港湾を結ぶ地域産業へと変わります。逆に、貯留容量の確認、漏えいの監視、事故時の補償、排出削減効果の算定が曖昧なままでは、クレジットや環境価値の信頼性が損なわれます。今回の実証は、石炭火力を延命する技術なのか、将来の二酸化炭素物流網を築く起点なのか、二つの見方を持ちます。判断を分けるのは回収率の数字ではなく、実証後に誰が継続的な費用と責任を引き受けるかです。

ビジネスへの影響

CCUS導入=排出解決ではない、圧縮から貯留までの総費用を算定

企業の意思決定でまず確認すべきなのは、CCUSを導入すれば排出問題が自動的に解決するという前提を置かないことです。導入候補企業は、回収装置の価格だけでなく、圧縮、貯蔵、輸送、受け入れ、貯留の監視までを含む二酸化炭素1トン当たりの総費用を算定し、電力消費による間接的な排出も差し引く必要があります。設備投資の判断には、稼働率が低い場合の固定費負担と、定期修繕時に輸送契約をどう扱うかも入れるべきです。

排出量の多さより、安定供給できる企業が輸送網で有利になる

排出量の大きい製造業にとっては、単独で回収設備を持つより、近隣の工場や発電所と集積基地を共同で利用するほうが、輸送量を確保しやすくなります。今後は、二酸化炭素の排出量が多い企業ほど有利とは限りません。排出量の季節変動が小さく、一定の品質のガスを安定して供給できる企業が、輸送網の基幹となる荷主として選ばれる可能性があります。港湾、タンク、船舶、計量設備を誰が保有するかによって、費用と交渉力の配分も変わります。

購入企業・金融機関は貯留の認証と二重計上防止を契約で確認

購入企業や金融機関は、回収した量ではなく、貯留地点の認証、漏えいの監視、環境価値の二重計上を防ぐ仕組み、将来の制度変更への対応を契約で確認する必要があります。CCUS由来のクレジットを利用する場合も、回収した量、輸送した量、実際に貯留した量を分けて記録できなければ、主張の信頼性を失います。舞鶴の実証は、設備メーカーや電力会社だけでなく、船会社、港湾の運営者、計量機器メーカー、保険会社にも参入の機会を生みます。企業は補助制度を待つだけでなく、自社の排出源から貯留候補地までの距離、年間排出量、供給の安定性を早めに棚卸しし、共同事業に参加できる条件を整理しておくことが重要です。

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