REPORT 02

CO2回収技術の現況 化学吸収からDACまで

CCUSの心臓部となる分離回収技術を方式別に比較・整理

CCUSのバリューチェーンで最も大きなコストを占めるのがCO2の分離回収であり、回収技術の優劣がCCUS・炭素回収ビジネス全体の競争力を左右します。本ページでは、商用化が最も進む化学吸収法を中心に、物理吸収・固体吸収・膜分離、そして大気からCO2を回収するDACまで、主要な回収技術の現況を報告します。

このページの要点: 現在の商用CO2回収の主流はアミンを用いた化学吸収法で、日本勢が世界トップクラスの実績を持ちます。固体吸収・膜分離は省エネルギー型の次世代技術として実証が進み、DACは米国・アイスランドで商用プラントが稼働を開始しました。技術選定はCO2濃度・圧力・所要エネルギーで決まります。

分離回収技術の全体像

CO2回収技術は、排ガスからCO2を分離するタイミングによって大きく3方式に分類されます。燃焼後の排ガスからCO2を分離する「燃焼後回収(Post-combustion)」、燃料をガス化してから燃焼前にCO2を分離する「燃焼前回収(Pre-combustion)」、燃料を酸素で燃焼させて排ガスをCO2主体にする「酸素燃焼(Oxy-fuel)」です。既設の発電所や工場に後付けできる燃焼後回収が、現在の商用プロジェクトの大半を占めています。

分離の原理で見ると、液体の吸収液を使う化学吸収・物理吸収、固体の吸着材を使う固体吸収(吸着)、分離膜を使う膜分離、低温で分離する深冷分離などがあります。それぞれに適したCO2濃度・圧力条件があり、排出源の性質に応じて最適な方式が選ばれます。

図1 主要なCO2分離回収技術の比較

方式原理適した条件成熟度
化学吸収法アミン等の吸収液がCO2と化学反応して吸収。加熱して再放出低濃度・常圧の排ガス(火力発電・セメント等)商用(主流)
物理吸収法高圧下で吸収液にCO2を物理的に溶解高圧・高濃度ガス(ガス精製・水素製造等)商用
固体吸収法アミン担持等の固体吸着材にCO2を吸着。低温で再生可能低濃度排ガス・省エネルギー化ニーズ実証段階
膜分離法分離膜のCO2透過性の差で分離。相変化なしで省エネ高圧プロセスガス、中小規模排出源実証〜初期商用
DAC大気中の希薄なCO2(約0.04%)を吸収・吸着材で直接回収立地自由・除去クレジット創出初期商用

成熟度は2026年時点の商用化状況に基づく整理です。

化学吸収法 商用CO2回収の主流

化学吸収法は、アミン系の吸収液がCO2と選択的に化学反応する性質を利用した方式です。吸収塔で排ガスと吸収液を接触させてCO2を吸収し、再生塔で吸収液を約120℃に加熱してCO2を放出・回収します。100年近い工業利用の歴史を持ち、大規模化の実績が最も豊富なことから、現在計画されているCCUSプロジェクトの大半がこの方式を採用しています。

この分野では日本企業が世界をリードしています。三菱重工業は関西電力と共同開発したKM CDR Processと高性能吸収液KS-1、KS-21を武器に、商用CO2回収プラントの納入実績で世界トップクラスのシェアを持ち、米国の石炭火力から年間140万トンを回収したPetra Novaプロジェクトなど大型案件を手がけてきました。東芝エネルギーシステムズも福岡県大牟田市の三川発電所で、バイオマス発電所の排ガスから1日500トン規模のCO2を回収するBECCS実証を運転しています。

化学吸収法の課題は、吸収液の再生に大量の熱エネルギーを要する点です。回収エネルギーはCO2 1トンあたり2.5GJ前後が目安とされ、これが回収コストの主因となります。このため各社は、反応熱の小さい新型アミンの開発、排熱利用、プロセス統合による省エネルギー化を競っており、吸収液の性能向上がそのまま事業競争力になる構図です。

固体吸収・膜分離 省エネ型の次世代技術

化学吸収法の弱点であるエネルギー消費を抑える次世代技術として実用化が進むのが、固体吸収法と膜分離法です。固体吸収法は、多孔質材料にアミンを担持させた固体吸収材にCO2を吸着させる方式で、液体を加熱循環させる必要がないため、60〜100℃程度の低温排熱で再生でき、省エネルギー化が期待できます。川崎重工業は独自の固体吸収材を用いたKCC(Kawasaki CO2 Capture)システムを開発し、舞鶴発電所において石炭火力の実排ガスから1日40トン規模を回収する実証を進めてきました。

膜分離法は、CO2を選択的に透過させる高分子膜や無機膜で分離する方式です。相変化を伴わないため原理的に消費エネルギーが小さく、装置がコンパクトでモジュール化しやすいことから、中小規模の排出源や船舶への搭載などへの適用が有望視されています。国内では次世代型膜モジュールの研究開発が「先進的CO2分離素材」として国のプロジェクトで支援されており、化学メーカー各社が分離膜の性能競争を続けています。

これらの技術はまだ実証段階のものが多いものの、「排出源の性質に応じた最適方式の使い分け」が定着すれば、化学吸収法一強の市場構造が多様化し、素材・部材メーカーに新たな参入機会が生まれると見られています。

DAC(直接空気回収)の商用化動向

DAC(Direct Air Capture)は、排出源ではなく大気中から直接CO2を回収する技術です。大気中のCO2濃度は約0.04%と排ガス(10%前後)に比べて桁違いに希薄なため、回収には大きなエネルギーとコストがかかりますが、立地の制約が小さく、回収量がそのまま「大気からの除去量」として評価できるため、CDR(炭素除去)クレジットの創出手段として注目されています。

商用化の先頭を走るのはスイスのClimeworks社で、アイスランドで地熱エネルギーを利用したDACプラント「Orca」(年間4,000トン規模)に続き、2024年には設計能力年間3万6,000トンの「Mammoth」を稼働させました。米国では、オキシデンタル・ペトロリアム傘下の1PointFiveがテキサス州で年間最大約50万トン規模の「STRATOS」を建設し、2025年に稼働を開始しています。同プラントには炭酸カリウム水溶液を用いる液体吸収方式が採用され、航空会社やIT企業が除去クレジットの長期購入契約を結んでいます。

日本でも、川崎重工業が固体吸収材を応用したDACの実証を進めるほか、名古屋大学発スタートアップや化学メーカーが低濃度CO2回収材の開発に取り組んでいます。DACの現在の回収コストはCO2 1トンあたり600〜1,000ドル程度とされ、各社は2030年代に100〜200ドル台への低減を目標に掲げています。DACのビジネス動向はブログ記事「DAC開発競争の最前線と課題」でも詳しく取り上げています。

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BECCSとネガティブエミッション技術

BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)は、バイオマス発電の排ガスからCO2を回収・貯留する技術です。バイオマスは成長過程で大気中のCO2を吸収しているため、燃焼後に回収・貯留すれば、システム全体として大気中のCO2を正味で減らすネガティブエミッションが成立します。既存のバイオマス発電所に回収設備を追設すれば実現できるため、DACより早期に大量のCDRを生み出せる現実的な手段とされています。

海外では英国Draxが大型バイオマス発電所へのBECCS導入を計画し、三菱重工業が回収技術パートナーに選定されています。米国ではルイジアナ州のAtmosClearプロジェクトがMicrosoftと675万トンの除去クレジット契約を結ぶなど、BECCS由来クレジットの大型取引が相次いでいます。国内では東芝の三川発電所実証が先行例であり、燃料の持続可能性の確保と併せて、国内バイオマス発電へのBECCS適用可能性が検討されています。

このほか、鉱物にCO2を固定する風化促進(Enhanced Weathering)や海洋アルカリ化など、多様なネガティブエミッション技術が研究段階から事業化へ向かいつつあり、CO2回収技術の裾野は「排ガス処理」から「大気の管理」へと広がっています。

技術選定の論点と回収コスト

回収技術の選定で最も重要な変数は、排出源のCO2濃度と圧力です。天然ガス精製や水素・アンモニア製造のようにCO2が高濃度・高圧で得られるプロセスでは分離が容易でコストも低い一方、火力発電の排ガス、さらに大気と、CO2が希薄になるほど回収コストは急上昇します。つまり「どこから回収するか」が「いくらで回収できるか」をほぼ決めるのです。

図2 排出源別のCO2回収コストの目安(1トンあたり・米ドル)

ガス精製・化学
15〜35ドル
製鉄・セメント
40〜100ドル
火力発電排ガス
50〜120ドル
DAC(大気)
600ドル前後〜

出典: IEA等の公表資料に基づく目安。プラント規模・立地・エネルギー価格により大きく変動します。

もう一つの論点はエネルギーペナルティ、すなわち回収設備の稼働により発電効率や生産効率が低下する問題です。省エネ型吸収液・固体吸収材・膜分離の開発競争は、このペナルティの最小化競争にほかなりません。回収コストの構造と低減シナリオについてはCCUSのコストと政策で、技術を持つ主要プレイヤーの動向はCCUS主要企業の動向で詳しく報告します。