REPORT 06

CCUS主要企業の動向 国内外プレイヤー総覧

回収技術・貯留・輸送・クレジット バリューチェーン別に主要企業を整理

CCUS・炭素回収ビジネスには、重工・エンジニアリング、資源開発、エネルギー、商社、海運、素材、スタートアップと、極めて多様なプレイヤーが参入しています。本ページでは、バリューチェーン上の役割ごとに国内外の主要企業を整理し、各社の戦略と最近の動きを報告します。

このページの要点: CO2回収装置では三菱重工が世界トップクラスの納入実績を持ち、日本勢の強い分野です。貯留はINPEX・JAPEX・ENEOSなど資源開発系が主導し、商社・海運が輸送・クレジットで存在感を高めています。海外ではExxonMobilの「カーボンマネジメント事業」やDAC専業スタートアップの台頭が注目されます。

CCUSプレイヤーマップ

CCUSの事業構造を理解するには、バリューチェーンのどの工程を誰が担うかを整理するのが近道です。以下の表は、国内外の主要プレイヤーを工程別にマッピングしたものです。一社で全工程をカバーする企業は少なく、案件ごとにコンソーシアムを組成するのがこの業界の標準的な事業形態となっています。

図1 CCUSバリューチェーン別の主要プレイヤー

工程国内の主要企業海外の主要企業
分離回収技術・装置三菱重工業、東芝ESS、川崎重工業、IHI、日立造船系SLB Capturi(旧Aker)、Shell(CANSOLV)、Honeywell UOP
DAC(直接空気回収)川崎重工業、双日(出資)、研究機関発スタートアップClimeworks、1PointFive、Heirloom、Carbon Engineering
エンジニアリング(EPC)日揮HD、千代田化工建設、東洋エンジニアリングTechnip Energies、Fluor、Wood
貯留・資源開発INPEX、JAPEX、石油資源開発、ENEOS・JX石油開発、J-POWEREquinor、Shell、TotalEnergies、ExxonMobil、Chevron
輸送(船舶・パイプライン)日本郵船、商船三井、川崎汽船、三菱造船Northern Lights JV、Denbury(Exxon傘下)
商社・クレジット三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅、双日Microsoft・Google・Frontier(大口買い手)、South Pole

公表情報に基づく代表例です。各社の事業範囲は拡大・変化しています。

三菱重工業 CO2回収の世界トップランナー

CO2回収プラントの分野で世界をリードするのが三菱重工業です。関西電力と共同開発した化学吸収プロセス「KM CDR Process」と高性能アミン吸収液「KS-1」「KS-21」を核に、商用CO2回収プラントで世界トップクラスの納入実績を積み上げてきました。米テキサス州の石炭火力発電所から年間140万トンを回収したPetra Novaプロジェクトは、発電所向け大規模回収の代表例として知られています。

近年の同社は装置販売にとどまらず、英Draxの大型BECCS計画への回収技術供与、ExxonMobilとの戦略的提携による米国市場展開、排ガスCO2回収の小型モジュール製品化など、パートナーシップ型のビジネスを拡大しています。また、CO2の回収から輸送・貯留までのバリューチェーン全体を最適化するデジタル基盤「CO2NNEX」の開発を進めるなど、「CO2のインフラ企業」への進化を掲げています。

国内の競合では、東芝エネルギーシステムズが三川発電所のBECCS実証で培った回収技術を持ち、IHIも アンモニア・回収複合の提案を進めています。世界の排出削減需要を考えれば市場は巨大であり、日本の重工各社にとってCO2回収は数少ない「世界で勝てる脱炭素技術」と位置づけられています。

エンジニアリング・プラント各社の戦略

CCUSプラントの設計・調達・建設(EPC)を担うエンジニアリング業界では、日揮ホールディングスが国内外のCCS・カーボンリサイクル案件で存在感を示しています。同社はLNGプラントで培ったガス処理技術をCCUSに横展開し、マレーシアやインドネシアでのCCSハブ構想、国内の先進的CCS事業への参画など、アジア太平洋を主戦場とした事業開発を進めています。千代田化工建設や東洋エンジニアリングも、水素・アンモニアとCCUSを組み合わせたクリーン燃料プロジェクトの設計業務を受注しています。

川崎重工業は、固体吸収材を用いた省エネ型CO2分離回収システム(KCC)の実証を石炭火力で進めるとともに、この技術を大気からの回収(DAC)へ応用する開発を推進しています。液化水素運搬船で世界を先行した同社は、液化ガスのハンドリング技術をCO2輸送にも展開できる立場にあり、回収から輸送までを視野に入れた技術ポートフォリオを構築しています。

エンジニアリング各社に共通するのは、EPC単発受注から、事業開発段階への早期参画や運転・保守を含むライフサイクル契約への転換志向です。CCUSは案件規模が大きく工期も長いため、川上での構想設計に食い込めるかどうかが受注競争の分かれ目となっています。

資源開発・エネルギー企業 貯留の主役

CO2貯留は地下構造の評価・掘削・圧入という石油ガス開発と同種の技術を必要とするため、資源開発企業が国内CCSの主役となっています。INPEXは東新潟や首都圏CCSなど複数の先進的CCS事業に参画し、長岡でのCO2圧入実績とガス田運営の知見を活かして、貯留事業を石油・ガスに続く第3の柱に育てる方針を掲げています。石油資源開発(JAPEX)と出光興産、北海道電力は苫小牧地域でのCCS事業化を検討し、ENEOSとJX石油開発、J-POWERは九州西部沖での貯留を計画しています。

電力業界では、J-POWERが石炭ガス化燃料電池複合発電とCO2分離回収を組み合わせた大崎クールジェンの実証を担い、火力発電の脱炭素オプションとしてのCCUS技術を蓄積してきました。製鉄・セメント・化学といった多排出産業も、排出者としてだけでなく、自社プロセスへの回収設備導入や CO2利用製品の開発者としてCCUSバリューチェーンに参加しています。

海外では、ノルウェーEquinor、Shell、TotalEnergiesがNorthern Lightsを運営するほか、ExxonMobilはCO2パイプライン網を持つDenburyを約49億ドルで買収し、排出企業向けに回収・輸送・貯留を一括提供する「カーボンマネジメント事業」を立ち上げました。石油メジャーが既存資産を活かして脱炭素サービス業へ転身する動きは、日本の資源開発企業の戦略にも大きな示唆を与えています。

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商社・海運 輸送とクレジットの担い手

総合商社は、CCUSバリューチェーンの組成者(オーガナイザー)として機能しています。三菱商事はマレーシア等への越境CCSバリューチェーン構築を主導し、三井物産は米国や豪州の貯留事業・DAC企業への出資を進め、住友商事や丸紅はバイオ炭・森林由来を含むカーボンクレジットの創出・トレーディング事業を拡大しています。双日はDAC関連スタートアップへの出資を通じて除去クレジットの供給確保に動くなど、各社とも「将来のCO2取扱権益」の確保を競っている構図です。

海運業界では、液化CO2輸送という新市場が立ち上がっています。日本郵船と商船三井は、Northern Lights向けをはじめとする液化CO2輸送船の保有・運航に相次いで参画し、三菱造船は実証試験船「えくすくぅる」を建造して低温低圧輸送の技術実証を担いました。LNG船で世界有数の地位を築いた日本の海運・造船業にとって、CO2輸送船は既存技術を活かせる有望な成長分野です。

海外スタートアップと新規参入の潮流

海外では、炭素回収・除去に特化したスタートアップの台頭が業界の技術革新を牽引しています。DACの先駆者であるスイスClimeworksはアイスランドで商用プラントを運転し、米Heirloomは鉱物(石灰石)の炭酸化サイクルを利用した低コストDACで注目を集めています。1PointFive(オキシデンタル傘下)は買収したCarbon Engineeringの技術をもとに、テキサス州で世界最大級のDACプラントSTRATOSを稼働させました。ノルウェー発のAker Carbon Captureは2024年に事業の主要部分がSLB(旧シュルンベルジェ)との合弁に統合され、油田サービス大手が回収技術を取り込む動きとして話題となりました。

スタートアップの資金調達を支えるのが、Frontier連合(Stripe・Alphabet・Meta・McKinsey等による約10億ドルの先行購入枠組み)やMicrosoftの大型オフテイク契約です。技術リスクの高い初期段階を「未来のクレジット」の前売りで乗り越えるという、この分野特有のファイナンスモデルが確立しつつあります。

国内でも、素材・計測・地質評価・モニタリングといった周辺領域でスタートアップや中堅企業の参入が始まっています。巨大プロジェクトの隙間には専門技術のニッチが多数存在し、大手コンソーシアムへの技術供給という形での市場参加が現実的な入り口となっています。各社の事業性を左右するコストと政策の環境はCCUSのコストと政策で、業界全体の中長期シナリオはCCUSビジネスの将来展望で報告します。