REPORT 04

カーボンリサイクル製品と市場の現況

コンクリート・合成燃料・メタネーション CO2を資源に変える事業の最前線

回収したCO2を「廃棄物」ではなく「資源」として製品に生まれ変わらせるのがカーボンリサイクル(CCU)です。CO2吸収コンクリートのように既に市場投入された製品から、合成燃料やメタネーションのように2030年代の商用化を目指す技術まで、開発フェーズは多層的です。本ページでは、製品分野ごとの現況と市場性、事業化の課題を報告します。

このページの要点: カーボンリサイクルはコンクリート・燃料・化学品の3分野が柱です。コンクリートは既に商用段階、メタネーションと合成燃料は2030年前後の商用化を目標に実証が進みます。多くの製品はCO2フリー水素の調達コストが事業性の鍵を握ります。

カーボンリサイクルの全体像とロードマップ

カーボンリサイクルとは、CO2を炭素資源と捉えて素材や燃料に再利用する取り組みの総称で、日本政府は2019年に世界に先駆けて「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を策定し、2021年と2023年の改訂を経て産業育成を進めています。ロードマップでは、技術の商用化時期を3つのフェーズに分け、2030年頃から普及が始まる技術、2040年以降に本格化する技術を整理しています。

図1 カーボンリサイクル製品の分類と商用化フェーズ

製品分野主な製品商用化フェーズ特徴
鉱物・建材CO2吸収コンクリート、炭酸塩骨材商用段階(拡大期)CO2を鉱物として半永久固定。水素不要でコスト構造が有利
燃料合成燃料(e-fuel)、SAF、合成メタン(e-methane)実証〜2030年前後商用化既存インフラを活用可能。CO2フリー水素の調達が鍵
化学品ポリカーボネート、ウレタン、パラキシレン等一部商用〜開発段階付加価値が高く小規模でも成立。人工光合成は長期テーマ

経済産業省カーボンリサイクル技術ロードマップ等をもとにした整理です。

カーボンリサイクルの意義は、CO2削減だけではありません。CO2由来の燃料や化学品は、輸入化石資源の代替、すなわち資源自給の手段にもなります。CCS(貯留)が「コストをかけてCO2を処分する」事業であるのに対し、CCUは「CO2から売上を生む」事業であり、収益構造が根本的に異なる点がビジネス上の魅力です。

CO2吸収コンクリート 商用化の先頭走者

カーボンリサイクル製品の中で最も商用化が進んでいるのが、コンクリート・建材分野です。コンクリートの原料であるセメント産業は製造工程で大量のCO2を排出しますが、逆にコンクリートにはCO2を炭酸カルシウムとして取り込み固定する性質があります。この性質を積極的に活用したのがCO2吸収コンクリートです。

代表例が、中国電力・鹿島建設・デンカなどが開発した「CO2-SUICOM」です。特殊な混和材を用いて養生時にCO2を吸収させることで、製造時排出量を上回るCO2を固定し、コンクリートとして世界に先駆けてカーボンネガティブを実現しました。大成建設の「T-eConcrete/Carbon-Recycle」は、CO2から製造した炭酸カルシウムを利用してカーボンリサイクルを実現する設計で、建築現場への適用が進んでいます。ブロックや境界石などの二次製品から始まった適用範囲は、建築物の床・構造部材へと拡大しつつあります。

コンクリート分野の強みは、水素を必要とせず、既存の建設需要という巨大な出口市場が存在することです。課題は通常品との価格差と、公共調達での評価です。国や自治体がグリーン調達で低炭素コンクリートを指定する動きが広がれば、市場は一気に立ち上がると見られており、建設・セメント業界のビジネスユニットにとって参入余地の大きい分野です。海外でも、カナダのCarbonCureがコンクリート打設時のCO2注入技術を北米中心に数百のプラントへ展開するなど、CO2固定型建材は世界的な成長分野となっており、技術ライセンスやクレジット化と組み合わせた多様な収益モデルが試みられています。

合成燃料(e-fuel)とSAF

合成燃料(e-fuel)は、回収したCO2とCO2フリー水素を合成して製造する液体燃料です。ガソリン・軽油・ジェット燃料と同等の性状を持つため、既存のエンジン・給油インフラ・タンカーをそのまま使える「ドロップイン燃料」であることが最大の価値です。電動化が困難な航空・海運・大型車両の脱炭素手段として、また既存の燃料供給網を持つ石油業界の事業転換の受け皿として期待されています。

国内ではENEOSが先行しており、中央技術研究所(横浜市)にCO2と水素から一貫製造する日量1バレル規模の合成燃料実証プラントを完成させ、2024年から運転を開始しました。同社は2028年度までに日量300バレル規模の中規模実証、2040年頃の本格商用化を目指しています。政府のGX戦略でも、合成燃料の商用化目標は従来の2040年から2030年代前半へと前倒しされました。

航空分野では、持続可能な航空燃料(SAF)の一種としてCO2由来の合成SAF(e-SAF)が位置づけられ、国際的な供給義務化(EUのReFuelEU等)を背景に、商社・石油・航空会社による供給網構築の検討が進んでいます。課題は製造コストで、現状ではリッター数百円以上と試算され、再エネ由来水素の低コスト化と製造プロセスの効率化が普及の前提となります。

メタネーション(e-methane) 都市ガスの脱炭素

メタネーションは、CO2と水素から都市ガスの主成分であるメタンを合成する技術です。合成されたメタン(e-methane)は既存の都市ガス導管・LNGインフラ・ガス機器をそのまま利用できるため、都市ガス業界が主導する形で開発が進んでいます。日本ガス協会は2030年に既存インフラへ1%のe-methane注入、2050年に90%の置き換えという目標を掲げています。

実証の代表例がINPEXの長岡鉱場での取り組みで、NEDO事業として国内最大規模となる毎時400ノルマル立方メートルのメタネーション実証設備を建設し、試運転を進めてきました。東京ガス・大阪ガス・東邦ガスなどの都市ガス各社は、海外の再エネ適地で大規模にe-methaneを製造し、LNGと同様に液化して日本へ輸送するサプライチェーンの事業化調査を米国・中東・豪州などで展開しています。

メタネーションの論点は、燃焼時に排出されるCO2を「製造時に回収したCO2」とどう相殺計上するかという排出量帰属ルールの国際整理です。この会計ルールが確立すれば、都市ガスという巨大市場を丸ごと脱炭素化する事業として、CCUSバリューチェーンの中でも最大級の需要創出源となる可能性があります。

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化学品・材料へのCO2利用

化学品分野では、CO2を原料としたポリカーボネートやウレタン原料の製造が一部で既に商用化されています。旭化成はCO2を原料とするポリカーボネート製造技術を世界各国にライセンス供与しており、CO2由来化学品の先駆的な事業例として知られています。三菱ケミカルや東ソーなどもCO2を利用したカーボネート系素材の開発を進めています。

より長期のテーマが人工光合成です。太陽光エネルギーを使って水とCO2からオレフィンなどの基礎化学品を直接合成する技術で、NEDOの人工光合成プロジェクトでは光触媒による水素製造効率の世界記録更新が続いています。実用化は2030年代後半以降と見込まれますが、化学産業の原料転換という産業構造レベルのインパクトを持つ技術です。

このほか、CO2と廃コンクリートや製鋼スラグを反応させて炭酸塩として固定し、骨材や路盤材に利用する鉱物化(ミネラリゼーション)も、処理コストの低さから事業化検討が活発です。化学品・材料分野は一つひとつの市場規模こそ燃料より小さいものの、製品の付加価値が高く、中堅化学メーカーにも参入機会がある領域と言えます。

実証拠点と事業化への課題

カーボンリサイクル技術の実証拠点として整備されているのが、広島県大崎上島のカーボンリサイクル実証研究拠点です。石炭ガス化と CO2分離回収の大型実証(大崎クールジェン)に隣接し、実際の発電所由来CO2を使って藻類培養・合成燃料・コンクリート・化学品など多様な研究チームが実証を行う、世界的にも珍しい集積拠点となっています。

事業化に向けた最大の課題はコストです。多くのカーボンリサイクル製品は、現状では化石資源由来の既存品より数倍高価であり、その主因は原料となるCO2フリー水素の価格にあります。水素コストが政府目標(2030年に30円/Nm3、将来20円/Nm3)まで低下することが、燃料系CCUの事業性の前提です。加えて、CO2由来製品であることの価値を市場で認める仕組み、すなわちカーボンフットプリント表示やグリーン調達、クレジット化の制度整備も欠かせません。

製品に固定されたCO2の削減価値をどう認証しカーボンクレジットとして流通させるかは、次ページで報告するカーボンクレジット市場のルール形成と表裏一体です。また、各分野で開発を主導する企業の顔ぶれはCCUS主要企業の動向で整理しています。