CO₂を粉にして運ぶ新発想、カルシウム循環が拓く脱炭素の物流
ニュースの概要
INPEXと住友大阪セメントが、カルシウム・ルーピングと呼ぶ新しいCO₂回収技術の実証試験を始めた。東京都三鷹市の海上技術安全研究所に設備を置き、大型船舶の排ガスに含まれるCO₂をアルカリ溶液で吸収する。続いて水酸化カルシウムと反応させ、固体の炭酸カルシウムに変える。この固体は常温・常圧で運べる。貯留地点で加熱してCO₂を取り出し、残った酸化カルシウムは再び回収用の材料として使い回す。液化CO₂を低温高圧で運ぶ従来方式とは、考え方が大きく異なる。
引用元: INPEXと住友大阪セメント、再利用可能なカルシウム化合物によるCO₂回収技術の実証試験を開始(Trend.AZ)
分析・見解
CO₂を石灰石に変えて運ぶという発想の転換
CO₂の回収では、集めた後の輸送が意外に重い負担になる。従来は圧縮して液体にし、専用船やパイプラインで運ぶ。低温や高圧を保つ設備が要り、費用もかさむ。
今回の技術は、CO₂を炭酸カルシウム、つまり石灰石と同じ成分に変えてしまう。固体なので袋やコンテナに入れて運べる。漏れの心配も小さい。ガスを運ぶのではなく、石を運ぶ感覚に近い。
船舶排ガスという難しい相手を狙う理由
船は陸上の発電所と違い、設備を置く場所が限られる。振動もあり、排ガスの量も運航ごとに変わる。そのため大がかりな回収装置を載せにくい。
この方式では、船上ではアルカリ溶液による回収までを担い、固体化の工程は陸側で行う余地がある。船の負担を軽くできる点が、海運の脱炭素に合う。国際海事機関が掲げる2050年ごろの排出実質ゼロという目標に向け、燃料転換だけでは足りない分を補う手段になり得る。
セメント会社が参加する意味
住友大阪セメントの参加は偶然ではない。セメントは石灰石を焼いて作るため、製造の過程でCO₂が必ず出る。日本のセメント産業は、国内排出の約4%を占めるとされる。
カルシウム・ルーピングは、石灰石を焼いて酸化カルシウムを得る工程そのものが技術の中核だ。セメント会社は焼成炉の運転や石灰石の扱いに長年の蓄積がある。つまり、自社の得意分野をそのまま脱炭素に転用できる。ここに、石油ガス会社が持つ貯留の知見が組み合わさる。異業種連携としての筋が通っている。
乗り越えるべき壁は熱エネルギーとコスト
弱点もある。貯留地点でCO₂を取り出すには、炭酸カルシウムを高温に加熱する必要がある。石灰石を分解する温度は900度前後で、大量の熱が要る。この熱を化石燃料でまかなえば、削減効果は目減りする。
同種の方式として、欧州ではセメント工場向けのカルシウム・ルーピング実証が進む。ただし、繰り返し使うと材料の反応性が落ちるという課題が報告されている。今回の試験でも、何回循環できるか、材料をどれだけ補充するかが最大の見どころだ。実証規模の設備で採算の見通しが立つかが問われる。
ビジネスへの影響
海運と港湾の事業者に生まれる新しい選択肢
船会社にとっては、燃料転換と並ぶ第三の道になる。アンモニアや水素の燃料船は価格が高く、燃料供給網も整っていない。既存の船に後付けで回収装置を載せられれば、投資を段階的に進められる。
港湾事業者も無関係ではない。固体の炭酸カルシウムを荷揚げし、貯留地点まで陸送する仕組みが必要になる。既存の貨物の取り扱いに近いため、新たな専用設備への投資を抑えやすい。
素材メーカーと資源会社が組む際の見極め点
素材メーカーは、自社の焼成技術がCO₂の物流に使える可能性を検討したい。副産物として出る炭酸カルシウムを、建材や土木資材として売れるかも重要だ。回収したCO₂を石として売る道が開ければ、費用の回収が早まる。
ただし、実証の段階で判断を急ぐのは禁物だ。確認すべきは三つある。材料を何回使い回せるか。加熱に必要な熱の調達先はどこか。炭酸カルシウムの輸送量は、現実の排出量に見合うか。
今すぐ自社で動かせる準備
排出量の多い企業は、自社のCO₂を回収した場合の輸送方式を、液化と固体化の両面から比較しておくとよい。補助金の対象や、貯留地点までの距離によって、有利な方式は変わる。
また、取引先から排出削減の根拠を求められる場面が増える。どの方式で、どれだけ貯留したかを証明できる体制を、早めに整えることが信頼につながる。